自宅内の吸入対策 -(空気清浄機等)

次に自宅内での吸入による内部被曝対策について説明いたします。

最も重要なことは室内に放射性物質を持ち込まないということです。これは花粉症の方が花粉を室内に持ち込まないことが重要であることと同様に、帰宅時に自宅に入室する際には注意が必要です。東京で汚染された瓦礫焼却が始まった今、屋外に浮遊する放射性物質の量は増加することが予想されることから、室内空間をクリーンな環境にすることは、以前より難易度が増しています。

①玄関には必ず衣服に付着したホコリをはらうブラシを置いておき、帰宅したらそのまま入室するのではなく、念入りに衣服をはらってください。この際、頭部に近い部分から順に上から下にブラシではらうようにすると良いです(逆の順序だと上半身に付着した粉塵等が再び下半身に付着してしまう恐れがあるためです)。

②できればブラシではらった後にウェットティッシュで衣服の表面を軽く拭くとより室内に放射性物質を含んだホコリや粉塵を持ち込むリスクが小さくなります。

③次に、室内に入る前に衣服はできる限りドアの外で上着(外気に触れた衣服のみ)を脱ぐようにした方が賢明です。衣服の脱着時に付着したホコリが舞ってしまう恐れがあるからです。周囲の環境からそれが難しい方は玄関で服を脱ぐようにするといいでしょう。

④地面と接地した靴の底は高濃度に汚染されている可能性がありますので、できれば履いた都度ウェットティシュで拭くか、よく利用する靴はビニール袋等に入れて室外に出しておくといいでしょう。筆者はドアの横に袋を引っかけるハンガーのようなものを付けて、よく履く靴は袋に入れてそこにかけたままにして、室内に入れないようにしています。

入室したらすぐにシャワーを浴びるかお風呂に入るべきです。その際、放射性物質による眼病を予防する為に目(まつ毛も)を水でよく洗うようにしてください。

 

次に、万が一室内に持ち込んでしまった汚染されたホコリや粉塵を吸い込んでしまわないよう、頻繁に床や家具の水拭きを行ってください。水拭きというのは埃を舞い上がらせないために非常に効果的です。間違っても、ハタキで叩くようなホコリを舞い上がらせるような掃除方法を控えてください。

 

掃除機による掃除も注意が必要です。後述するHEPAもしくはULPAフィルターを備えた掃除機であれば問題ありませんが、そうでなければ排気口から細かい粒子を再び放出してしまうリスクがあるため、掃除機中心から水拭き中心の掃除方法に切り替えるのが賢明です。どうしても掃除機を使わなければいけないときは、内部被曝対策(吸入編) > 吸入対策(外出時)で紹介したN95マスクを掃除中に着用し、掃除機のスイッチを切ったあとも暫くマスクを着用し、細かい粒子が落ちた可能性のある床は最後に水拭きすることをお勧めします。

 

それでも室内に存在する放射性物質を含むホコリや粉塵をゼロにすることは極めて困難です。掃除しきれなかった放射能に汚染されたホコリを吸い込んでしまわないよう、空気清浄機を導入することが効果的です。

内部被曝対策(吸入編) > 吸入対策(外出時)で説明したとおり、 空気中を浮遊している放射性物質の粒子は、0.3μm(マイクロメートル=ミクロン)程度の非常に小さな微粒子(ナノ粒子)であるため、そのサイズの粒子を捕獲できるフィルター能力を持った空気清浄機を利用することが必要です。

0.3μmの粒子をほぼ集塵できる性能を持つフィルターをHEPA(ヘパ;High Efficiency Particulate Air Filter)フィルター(「定格流量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルター」としてJIS規格で定められた高密度フィルター)と呼びます。集塵能力は極めて高く、下記の通り、HEPAフィルターはクリーンルームや一部原発施設内にも使用されています。尚、花粉の直径は30μm、よりハウスダストやカビ菌なども2~5μm程度のサイズであり、HEPAフィルターは多くの浮遊物質を捉える能力を備えています。

 [source: Wikipedia「HEPA」]

その高い集塵能力を備えているがゆえにHEPAフィルターにも弱点はあります。フィルターの網目が細かいということは多くの粉塵を捉えると同時に空気そのものも通り抜けにくいものになります。長期間使用し続けることでフィルターが徐々に汚れてくると、集塵フィルターの目が詰まってきて、空気が通り抜けにくくなってしまいます。HEPAフィルターを空気が通り抜けにくくなると、空気清浄機が吸い込める風量も落ち、最終的に集塵力の低下につながります。つまり、フィルター交換を行わないと集塵力はどんどん落ちていってしまいます。特に汚染された放射性物質が詰まったフィルターはたとえメーカーが「10年交換不要」を謳っていたとしても、使用場所にもよりますが、1~3年程度でフィルターを交換することをおすすめします。

なお、HEPA以上の性能を有するULPAフィルターも存在しますが、非常に高価であるためフィルターの交換コスト等を考えると現実的ではありません。

  • HEPAフィルター : 0.3μmの粒子に対して99.97%以上
  • ULPAフィルター : 0.15μmの粒子に対して99.9995%以上

 

HEPAフィルターを備えた空気清浄機を販売している代表的なメーカーはSHARPです。SHARPと言えば「プラズマクラスター」の方が遥かに有名ですが、フィルター自体も高い性能を誇っています。また、東芝もシンプルにHEPAフィルターのみによる空気清浄を行う機器を製造しています。(筆者はSHARPと東芝の清浄機を併用しています。)

SHARP プラズマクラスター搭載 加湿空気清浄機「KC-A50」SHARP プラズマクラスター搭載 加湿空気清浄機「KC-A50」

SHARP プラズマクラスター搭載 加湿空気清浄機「KC-A50」

「KC-A50」の検索結果(楽天市場)

 

しかし、HEPAフィルターを使用していないからといって吸入による内部被曝予防に全く効果がないわけではなく、HEPAに近い性能を備えたフィルターを使用している清浄機もあるため、メーカー毎、機種毎の仕様をよく調べることが大切です。例えばダイキンはHEPAフィルターを使用しておらず、フィルター本体の集塵能力はSHARP製品に劣るものの、「光ストリーマ」技術によりホルムアルデヒト等の有害化学物質の除去能力を謳っており、換気を十分に行うことができない東京の現状においてはシックハウス症候群を防ぐという観点から非常に魅力的と考えます。例えば、HEPA搭載のSHARPの清浄機とシックハウス対策に強いダイキンの清浄機のペアなどはクリーンな室内を実現する上で有効な組み合わせと言えるでしょう。(筆者もSHARPとダイキンの空気清浄器の双方を稼働させています。)

ダイキン(DAIKIN) 加湿空気清浄機「うるおい光クリエール」 ホワイト TCK70M-W

「ACK70M」の検索結果(楽天市場)

 

「放射能は空気清浄機なんかでは防げるわけがない」と漠然と言う方がいらっしゃいますが、放射線(ガンマ線)に関しては空気清浄機本体そのものを突き抜けてしまうためその通りですが、放射性物質を含んだ粉塵を室内空間からフィルター内に集めることは十分できます対策を考える上で > 内部被曝の恐怖 で述べたとおり、東京に住む私たちが気を付けるべきは内部被曝であり、汚染されたホコリや粉塵そのものを吸い込んでしまう内部被曝の害に比べれば、放射性物質が蓄積した空気清浄機のフィルターから放射する放射線を浴びることによる外部被曝の害は殆ど無視できる程度の影響度です。

 

それでも汚染度の高い地域に住んでいる方の場合は長く使用したHEPAフィルターが放射線を発する線源となり得る可能性もあるため、コストはかかりますが頻繁にフィルターを交換し(交換時は必ず屋外にてマスクを着用して行うこと)、空気清浄機本体の至近距離で就寝するようなことは避けた方がいいでしょう。しかしながら、頻繁に掃除を行っている南関東エリアの家庭であれば、清浄機からの外部被曝が懸念されるようなことは殆ど有り得ないと考えていいと思います。

 

<追記>

2012年2月、ワカイダ・エンジニアリングという会社から、放射性物質の除去ができるというのを前面にアピールした活性炭素繊維フィルター(WACフィルター)を搭載した家庭用空気清浄機「WACジュニア」という製品が発売されました。

上述したHEPAフィルターに加えて、活性炭素繊維を用いた高性能フィルターを備え、従来捉えることができなかったガス状のヨウ素もキャッチする能力が謳われています。HEPAフィルターは超微細な粒子をキャッチする能力はありますが、希ガス化したものを除去する能力は有していないため、ガス化したヨウ素を防ぐことができるというのは非常に画期的なことです。

しかしながら、当商品は非常に高価であり、原発が再臨界しない限りヨウ素を恐れる心配は無く、目の前の脅威は粒子状の放射性セシウムや放射性ストロンチウムというのが現状です。東京および関東在住の我々が対処する方策としては、先ず通常のHEPAフィルター搭載の空気清浄機で室内空間をクリーンにすることと認識しています。

 

 

 

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