内部被曝の恐怖

身体の外にある放射性物質から放射線の放射を受けるのが外部被曝です。一方、 小さな埃や粉塵等に付着した放射性物質そのものを食べ物とともに体内に取り込んだり、呼吸とともに肺から吸い込み、体内に入った放射性物質から放射線を受けるのが内部被曝です。

外部被曝と異なり、内部被曝では体内に取り込まれた放射性物質により、それが体外に排出されるまでの間、至近距離から局所的に強い放射線を長い期間継続的に浴び続けるため、低線量でも危険性が高く、繰り返し放射線を受け続けた臓器に癌が発生しやすいとされています。

外部被曝は殆ど到達距離が長いガンマ線から受けるものです。(加えて若干ながらベータ線による外部被曝もあります)

一方、内部被曝は放射性物質の粒子を吸い込んだり食べたりするわけですから、アルファ線、ベータ線、ガンマ線ともに受けます。

ガンマ線を発する物質を取り込んでも、先述したように到達距離が長いのでエネルギーの殆どが体外に出てしまうので、受けるダメージは限定的です。一方、問題なのはアルファ線とベータ線の内部被曝です。アルファ線とベータ線はガンマ線に比べて飛距離は短く、体外であれば簡単に遮断できますが、その短い距離内で放射するエネルギーはガンマ線より遥かに大きい(正確に言うと、アルファ線は電離作用が強い)ため、アルファ線核種やベータ線核種から受ける内部被曝の影響は非常に大きくなります。

プルトニウム239はアルファ線、ストロンチウム90はベータ線、セシウム137はガンマ線を出すので、プルトニウムやストロンチウムは危険だ、と言われることが多いですが、若干正確性に欠けます。正確にはセシウム137は崩壊の過程でベータ線もガンマ線も放出します。詳しくは下記のサイトをご覧下さい。

[source:「放射線の発生 」兵頭俊夫のホームページ(サイエンス ・ 教育 ・ 社会)]

アルファ線やベータ線は電離作用が強いために透過力は小さく、正確に測定することは困難です。そのため、測定が容易なガンマ線を検出する(対策を考える上で > これからの生活と必需品(ガイガー等)  参照)ことで、汚染の度合を測定しています。つまり、ガンマ線による汚染を測定することで、間接的にベータ線による汚染を測定しているということです。このあたりは若干専門的になりますので、・アルファ線やベータ線による内部被曝が健康への影響では深刻、・ガンマ線しか正確に測定できないために代替的にガンマ線を測定して汚染度を判断する、という2点のみ頭に入れておいていただければ十分です。

 

我が国では2012年4月より食品に含まれる放射性物質の規制値である暫定基準値が引き下げられることとなりましたが、それでもなお内部被曝の影響を軽視しており諸外国に比べて極めて甘い基準値となっているため、後述する内部被曝対策が重要となっております。

 

放射能被曝の影響 ICRP、ECRRの違い

水道水の放射性物質含有量の基準値の国際比較

[source: 松井英介監修・NPO 法人セイピースプロジェクト「放射線被ばくから子どもを守るために」]

内部被曝の危険性非常にわかりやすく説明されている冊子です。PDFファイルですので、印刷して親御さん等に配布するのにおすすめです。また、食品等の基準値の国際比較がわかりやすく記載されています。

 

至近距離から強力な放射線を集中的に一か所に受けるという点で、同じ実効で線量で比較すると内部被曝は外部被曝の600倍から1,000倍ほどの危険性 があると言われています。

つまり、外部被曝の1mSVと内部被曝の1mSVとは人体に与える影響は全く異なり、ICRP(国際放射線防護委員会)や日本政府が唱える1mSvまでは安全というのはあくまで外部被曝のみを考慮したに過ぎないということに注意が必要です。

 

外部被曝と内部被曝の違いについて語るとキリがありません。しかし、人体に与える影響が桁違いであることは明らかです。もし、その差がないのであれば、日常的に高高度で放射線を浴び続けているパイロットや乗務員の癌の発生率が有意に高くなるはずです。しかし、実際にはパイロットや乗務員の多くが癌で亡くなっているということはなく、一方、原発作業員の方々の多くが白血病や骨髄腫にて命を落としている(労災の適用事例もあります)というのがその証左です。原発作業員は外部被曝の線量は厳しく管理されており、多くが年間5mSv程度に過ぎません。日本より高緯度地域にある欧米諸国の国際線パイロットは、年間5~6mSvほどの被曝量となることがわかっていますが、航空機内で浴びる宇宙から受ける放射線の影響は外部被曝のみである一方、原発作業の場合は放射性廃棄物等を扱うため必ず内部被曝を伴います。(尚、我が国の場合、文部科学省が2006年4月「航空機乗務員の宇宙線被曝管理に関するガイドライン」を示し、乗務員の被曝量は年間5mSvの管理目標値を設定しています。)

 

加えて、内部被曝を語る際にもう一つ重要なことがあります。それは自然放射線核種人工放射線核種の違いです。自然放射線核種の代表的なものは放射性カリウム40で、人体に100ベクレル/kg程度存在します。放射線自体は自然放射線と人口放射線に全く違いはありません

地球誕生のときに生まれた放射性核種であるカリウム40は、多くは放射線を出して安定な元素に移行したものの、半減期が12.7億年と非常に長いため、今現在も存在して放射線を出しています。このようにカリウム40は太古の昔より地球上に存在するため、我々人類は進化の過程において体内に過剰に蓄積しないよう適応してきました(カリウム40を適度に排出することで、濃縮せずに体内濃度を一定に保つことができます)。

 [source:  原子力資料情報室(CNIC) 放射能ミニ知識 「カリウム-40(40K)」]

<抜粋> 天然に存在する代表的な放射能で、太陽系がつくられた時から存在している。カリウムはナトリウムと似た性質をもち、化合物は水に溶けやすい。体内に入ると、全身に広く分布する。カリウムは必須元素の一つである。成人の体内にある量は140g(放射能強度、4,000ベクレル)で、1日の摂取量は3.3gである。生物学的半減期は30日とされている。

 

一方、放射性セシウム137といった物質は原子力発電所が稼働し始めてから、ここ数十年程度で初めてこの世に産まれた物質であり、我々生物が体内に溜め込まないような防御反応を示すことができないのは当然のことです。人工放射線核種は体内に蓄積してしまう、という点で自然放射線核種とは危険性が全く異なります。つまり自然放射線と人工放射線で放射線事態には全く違いはありませんが、自然放射線核種と人工放射線核種では体内における挙動が全く異なるということです。このことを理解していないと、「人間はもともとカリウム40からの放射線被曝を日常的にしているのだから、セシウム137等を気にし過ぎる必要はない」という被曝の害を軽視する原発推進側の学者に言いくるめられてしまうことになります。

 [source:  原子力資料情報室(CNIC) 放射能ミニ知識 「セシウム-137(137Cs)」]

<抜粋> 半減期30.1年。ベータ線を放出してバリウム-137(137Ba)となるが、94.4%はバリウム-137m(137mBa)を経由する。バリウム-137mからガンマ線が放出される。セシウムの化学的性質と体内摂取後の挙動は、生物にとって重要な元素であるカリウムと似ている。体内に入ると全身に分布し、約10%はすみやかに排泄され、残りは100日以上滞留する。成人の体内にあるセシウムの量は1.5㎎で、カリウムの140gの約10万分の1である。旧ソ連原発事故では、広い地域が1m2あたり50万ベクレル(5.0×105Bq)以上のセシウム-137で汚染された。そのような場所では、セシウム-137のみから1年間に1ミリシーベルト以上の外部被曝を受ける。事故直後は、短寿命放射能の存在と内部被曝の寄与で年間10ミリシーベルトをはるかに超える被曝を受けていた。ふつうの人は、そこに住むことはできない。

 

最後に一番重要なこと、それは放射線被曝による健康被害はガンに限らないということです。甲状腺ガン、白血病、骨髄腫に関しては比較的被曝との因果関係が証明しやすいため、チェルノブイリ原発事故においてIAEAが甲状腺ガン被害を認め、国内での原発作業員の方々の白血病の労災認定(認定基準値:年間5mSv)が存在します。しかし、チェルノブイリの研究によれば、ガンよりも早期にそして幅広く被害が生じるのが放射性セシウムが心筋に蓄積することによる心疾患、放射線おょび増加した活性酸素により細胞が攻撃されることによる免疫不全障害、そして脳へのダメージによる知的障害です。特に子どもの知的障害は深刻で、チェルノブイリ原発事故が起きた後に産まれたベラルーシの子供たちの高等学校の卒業率は著しく低くなったという統計もあります。

一方、急性被曝症状の一部と見られる下痢、鼻血、嘔吐やその他の症状について、福島原発事故以降に東北・関東地域を中心に増加しているという報告が多数上がっていますが、低線量被曝により急性被曝症状に類する被害が生じるか否かということでは医師の間でも非常に意見が分かれているということです。この点については、もう少し情報を整理した上で述べていきたいと思います。(現時点では医師であっても断定的な判断ができないのが実情です。)

 

これら内部被曝の危険性については非常に重要な事項ですので、より深く学びたい方のために下記のサイトをご紹介いたします。

 

[source: 大江希望氏サイト「『内部被曝』について(その7)低線量被曝」]

<一部抜粋>・内部被曝は、単に、体内に線源が入ったというだけではない。アルファ線やベータ線が、生体内のきわめて狭い範囲の細胞に集中的にヒットし続けるという点で、生体へのダメージのあり方が外部被曝とはまったく異なる。場所的に集中しているだけでなく、時間的にも継続してヒットされる。「細胞周期」の数時間~十数時間がとくに“敏感”にダメージが生じるとされる。

・内部被曝はスポット的に効くので、それがガン化を誘発する可能性が高い。しかも、ある程度強い放射能の粒子であればその細胞を殺してしまうのだが(ガン化さえなされない)、非常に弱い放射能を持つ場合に細胞の遺伝子を損傷するが細胞を殺さないというガン化に都合のいい状態が出現する。その細胞が増殖する機会があれば、ガンが発現するのである。

 

[source: ECRR(欧州放射線リスク委員会)「2010年勧告」日本語訳]

<一部抜粋>低レベルの内部被ばくとガンや白血病とを結びつける証拠の全てが、放射線以外の 原因が(それらがどんなにあり得そうにないものであったとしても)その影響を引き起 こしたのかもしれないという問題に悩まされている。キンレン(Kinlen)らの(上で議 論した)人口混合説は、これの好例である。低レベル放射線に関しては、最初におこる 遺伝的損傷と、組織病理学的な確認が可能なガンという最終的な臨床的表現との遅れ時 間によって、原因と結果とが分断されており、そのような時間的隔たりの間に他の可能 性のある要因が見つかるかも知れないという問題もある。しかしながらここ数年の間に、 技術の発達や、チェルノブイリ事故後に被ばくした十分に定義された集団の存在が、ガ ン発生率や死亡率についての小規模なデータの利用に関する状況が多少緩和されたこと とあいまって、ICRP モデルの誤りとそれが内部被ばくに関係していることについて明白 17 な証拠を示す2つの研究を可能にした。リスク係数の誤りについての議論の余地のなく 明白な証拠を与えるその2つの研究を表11.9に示している。

<表11.9> ICRP モデルの誤りについての明白な証拠を示すために本委員会が取り上 げる最近の研究。< 1. チェルノブイリ後のミニサ テライトDNA 突然変異>: チェルノブイリ事故後に生まれた子どもの客観的科学的尺 度は事故前に生まれた兄弟姉妹と比べ、突然変異に関して7 倍増加していることを示している。ICRP モデルの誤りはこ のエンド・ポイントで700 倍~2000 倍。 <2. 5カ国での小児白血病>: 胎児の時に体内の放射能によって被ばくした子どもらにお ける小児白血病の増加は、ICRP モデルのリスク係数の誤り がこのエンド・ポイントで100 倍~2000 倍であることを明ら かにしている。

 

 [source: 矢ヶ﨑 克馬 (琉球大学理学部 名誉教授)「内部被曝についての考察  」(PDF)]

 <一部抜粋>高密度被曝の場合は再結合するときに相手を間違え、DNAの間違った組み 合わせをもたらします。これが一発一発のアルファ線で引き起こされるもので すから、疎らにイオン化されたばあいと比較にならない危険度があります。人 間は2重3重の発がんに対する防御機構を持っているといわれますが、多数の α線による内部被曝でできた異常DNAの活動のすべてを防御できるはずがあ りません。 多数のがん患者発生の充分な根拠になります。ウランが発がんを 誘発する根拠は充分すぎるほどあります。 図4は、はアルファ線の飛ぶ距離と細胞の大きさのイメージ化です。細胞核に はDNAが詰まっています。α線が細胞核をヒットした場合、DNAに高密度 被曝・イオン化を与えます。DNAが過って再結合して、もしそれが増殖等の 活動を開始したらがんや腫瘍の発生と結びつきます。

 

 

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