東京は住めるのか

東京が最も高い放射線量を記録したのは2011315。この時、福島第一原発(主に2号機)からの高濃度の放射性雲が風に乗って東京を襲ったと考えられています。この時、我々南関東の住民は残念ながら放射性物質の吸入による内部被曝、または放射性雲からのガンマ線の攻撃による外部被曝を余儀なくされました。

 ↓(新宿における空間放射線量の日次ヒストリカル推移。2011/3/15に最大値である毎時0.809μSvを観測。次点は3/22の0.166μSv)

[source:東京都健康安全研究センター「大気中の放射線量/1日単位の測定結果(新宿)」]

一方、東京の大地を最も汚染したのは321日~22。この時も3月15日と同様に原発からの風向きが関東方面に変わり放射性雲が東京に到達したと同時に、不幸なことに降雨があったため、大地が放射性物質を多く含む雨に汚染されました。

↓(新宿におけるフォールアウト(放射性降下物)の日次ヒストリカル推移。2011/3/21にセシウム134と137の降下量が最大値である合計10,600ベクレル/㎡/日を観測。ヨウ素131の最大値は3/22の36,000ベクレル/㎡/日。)

[source:東京都健康安全研究センター「都内の降下物(塵や雨)の放射能調査結果」]

 

東京都民である我々が最も被曝したのは空間線量が最も上昇した3月15日ですが、今現在に至る汚染を定着させたのは321日~22日の降雨が主たる要因です。大地を汚染させるためには、まず放射性物質を含む大気が上空に漂うという風向きの条件と、それを大地に定着させる降雨の条件の2つが重なることが必要なのです。

 

汚染ルートが最もわかりやすく示されているのは、以下の火山学者である早川由紀夫先生(群馬大学)による有名な「放射能汚染マップ」です。いまでは他に詳細な調査やシミュレーションが存在しますが、事故直後においてこれらの情報を分かりやすくまとめて我々に周知してくれた功績は計り知れないでしょう。(詳しくは「早川由紀夫の火山ブログ」をご覧下さい。)

早川由紀夫先生「放射能汚染地図」

 

以下は「日本原子力研究開発機構」によるセシウム137のフォールアウトのシミュレーションですが、東京(南関東)の汚染の原因となったのが3月21日~22日の降雨であることがわかると思います。

セシウム137降下量シュミレーション2011年3月21~22日

[source:日本原子力研究開発機構「Cs137の大気降下状況の試算 - 世界版SPEEDI(WSPEEDI)を用いたシミュレーション -」]

<以下、上記サイトより引用>

『3月20日9:00- 21日9:00:20日の昼までは関東に拡散した後、北西方向へ拡散し、深夜から再び南西の関東方向に拡散。関東地方では20日夜までの乾性沈着と21日朝からの湿性沈着に起因して降下量が増加した。福島県東部は乾性沈着、宮城、山形及び岩手県では湿性沈着に起因した降下量の増加がある。

 3月21日9:00- 22日9:00:関東地方全域に拡散し、降雨による湿性沈着で降下量が増加した。』<(独)日本原子力研究開発機構より引用終わり>

 

このことは以下の動画を見てもよくわかります。これは国立環境研究所によるセシウム137の「大気輸送沈着シミュレーション」を有志の方が動画に起こしたくれたものです。あくまでシミュレーションですが、恐らくこれにほぼ近い形で放射性セシウムが東京を汚染したものと思われます。詳しく知りたい方は下記の国立環境研究所ホームページをご覧ください。

国立環境研究所によるセシウム137大気輸送沈着シミュレーション

[source:国立環境研究所「4. 福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気輸送沈着シミュレーション」]

 


では、その汚染度はどの程度なのでしょうか。最も詳細且つ広域な調査は、下記の文科省による航空機モニタリング調査結果に示されています。

[source:文部科学省「東京都及び神奈川県の航空機モニタリングの測定結果について」]

[source:文部科学省「愛知県、青森県、石川県、及び福井県の航空機モニタリングの測定結果について」]

「セシウム134、137の沈着量の合計」の値をご覧ください。一見、南関東エリアは東葛地域と一部埼玉県西部や奥多摩地域以外は汚染されていないように見えてしまいますが、セシウム量の最低分布を示すレンジが「10,000ベクレル/㎡以下」(表記上は「10k」とありますがこれは10,000のことです)であることに注意が必要です。最も汚染が少ないレンジの「薄い茶色」であるから安心というのことではなく、このエリアでは放射性セシウムが1平米あたり10,000ベクレル以下である、ということに過ぎません

この調査では恐らく本来はもっと低い水準まで測定する能力はあると思われますが、下限を10,000ベクレル/㎡と高い水準に設定し、それ以下の汚染の度合いを見る側が判断することができないように設定した何らかの理由はあると思われます。いずれにせよ、それ以下の汚染度はこの調査からは読み取ることができません。

東京都内に絞ってみると、東部では足立区・江戸川区・葛飾区の一部で、その一つ上の「10,000~30,000ベクレル/㎡」のレンジに、奥多摩の一部ではさらにその上の「30,000~60,000ベクレル/㎡」のレンジの汚染が存在します。

よって、そのすぐ隣に位置する都心部が10ベクレル/㎡や0ベクレル/㎡といった水準であることは考えにくく、愛知県全域に記された「薄い茶色」の水準と、濃い茶色や青色に囲まれて記された都心部の「薄い茶色」が同じ水準であると考えるのは楽観的過ぎるというのがわかると思います。

実測値ではないものの、より低線量汚染まで示したシミュレーションマップもあります。これは、「米科学アカデミー」に掲載された研究結果です。

[論文「福島原発から放出されたセシウム137の日本全国への沈着量及び土壌中濃度の見積もり」2011年11月15日プレスリリース]

これは文科省による定期降下物データを基に、ノルウェーの大気輸送・拡散モデルを用いてセシウム137の沈着量と土壌汚染を見積もったシミュレーション結果です。あくまでシミュレーションであり実測値ではないことに注意が必要ですが、文科省の航空機モニタリング調査に比べて遥かに低濃度の汚染(5ベクレル/kg、10ベクレル/kg等)まで示されている点が評価できます。

航空機モニタリングでは調査対象エリアにすらなっていない北海道エリアが低線量ですが汚染されている可能性があること(ただし東京・南関東に比較すると概ね1桁低いレベル)、飛騨・木曽(アルプス)山脈、越後山脈、関東山地等により汚染された放射性雲の流れが遮られ、西日本エリアが低汚染となったであろうことがわかります。

<追記>

こちらは実測値ではなくシミュレーションであることを述べましたが、その後の各種の土壌汚染調査や各地のゴミ焼却場による焼却灰の放射能濃度測定結果等から北海道エリアの汚染度は長野県西部や静岡県西部よりも低い汚染度であることが明らかになっていることから、実際の汚染度とは乖離が生じているものと思われます。現実には北海道は汚染を気にして生活する必要のない地域と判断して問題ないでしょう。こちらは原発事故以降の比較的初期の分析結果であることから、現時点においては参考程度に捉えるべきと考えます。(2013年10月)

 


10,000ベクレル/㎡以下、と言われてもピンと来ない方が多いかもしれません。食品等の暫定規制値(農林水産省)では「野菜や肉、それに卵や魚などそのほかの食品」における放射性セシウムは500ベクレル/kgという風に定められています。また、日本の食品衛生法では、1kgあたり5,000ベクレルの放射性セシウムが、土壌中の安全限界と見なされています。同様に馴染み深い「kgあたり」に変換してみましょう。

一般的には地表面の単位当たりの蓄積量(Bq/m2)を65で割ることで土壌中放射能濃度(Bq/kg)に換算することが多いです(これは、土壌の密度を1.3g/cm3として、土壌採取の深さ5cm中にほぼ全ての放射性セシウムが沈着しているという仮定に基づいています)。

東京都心部および神奈川、千葉、埼玉の多くの部分の土壌の汚染度は10,000ベクレル/65=約154ベクレル/kg以下となります。

 

一方、下記「放射能防御プロジェクト」では東京都内の平均土壌汚染(セシウム134、137合計)は462ベクレル/kg。上記の文科省の航空機モニタリング調査結果とは大きく差があります。

放射能防御プロジェクト

[source:放射能防御プロジェクト「首都圏土壌調査結果」]

 

<2012年3月24日 追記>

上記「放射能防御プロジェクト」の代表である 木下黄太さんが、この度データの取捨選択をし、東京23区の汚染状態の再確認を行ったとのことです。信頼性の低いデータを除き、新たに追加収集したデータを加えると、下記の通り、東京23区の放射能汚染状態はセシウム合算で平均1,006Bq/kgとの結果になるとのことです。木下黄太さんによれば、これはチェルノブイリ原発事故から数年後のウクライナのキエフをやや上回る程度の汚染度ということで、東京23区の汚染平均はおおよそそ800Bq/kgから1,000Bq/kg程度であろうと推測しておりますが、これは後述する当サイトにおける「東京都内の土壌汚染度は数百ベクレル/kg程度」との推察と大きく変わりません。詳細は「木下黄太のブログ」記事をご覧ください。

(捕捉: キエフはチェルノブイリ原発から南方130km程度の距離にありますが、事故直後の風向きが逆の北西から北東方向であったため深刻な汚染となりませんでした。)

東京都23区平均: Cs-134: 447Bq/kg, Cs-137: 559Bq/kg, Cs合算: 1,006Bq/kg

 

Bq/m2→Bq/kgへの換算係数65が上記の一定の仮定に基づいていることから、土壌の質、密度等により誤差が生じるのは仕方がないものと思われますが、それにしても差が数倍以上というのは大きすぎます。

これは、前者がアスファルトや建物を含む地表全体から発する放射線を計測しているのに対して、後者が庭や植え込みなどの「土」のみをサンプルとしていることに差異の要因があると考えられます。つまり、アスファルト、コンクリート等はセシウムの沈着率が低く、雨等で洗い流される割合が大きい一方、セシウムは土によく保持されるということが影響していると思われます。

セシウムの性質については下記の解説が分かりやすいです。

日本土壌肥料学会(セシウムの土壌への沈着を解説)

[source:日本土壌肥料学会「放射性セシウムに関する一般の方むけのQ&Aによる解説」]

<要点> ・セシウム137は、土に強く保持される特徴がある。

      ・半分の濃度に減る機関(滞留半減時間)は水田で9~24年、畑で8~26年。

 

ここで皆さんは疑問に思うはずです。肝心の土壌汚染の検査について、なぜ民間団体でなく行政がちゃんと行わないのか、と。実は東京都が2011年9月時点において、1地点のみですが、信頼性のある機器(ゲルマニウム半導体検出器)にて測定しております。

 [source: 東京都 福祉保健局 「土壌中の放射性物質の測定結果について」]

上記検査によれば、 土壌採取場所は「東京都新宿区百人町」、採取日は「2011年9月6日」、「深さ0~5センチメートル」の土壌を採取し、「ゲルマニウム半導体検出器」にて測定した結果、セシウム134と137の合計値で790ベクレル/kgとあります。

実はこの検査は原発事故以前より年に毎年1回定期的に行っているものです。過去の結果も「(参考)」として載せられております。過去5年間の 深さ0~5センチメートルの土壌測定結果は「ヨウ素131、セシウム134はND(不検出)、セシウム137は2.00Bq~3.67Bqベクレル/kg」です。これは半減期の長いセシウム137(半減期:約30.1年)は中国の核実験によるものやチェルノブイリ原発事故時に偏西風に乗って運ばれてきたものが微量に残っているからです。

この790ベクレル/kgという数字をどのマスコミも扱っていないことに驚かされますが、上記の「放射能防御プロジェクト」における東京都内の平均土壌汚染(セシウム134、137合計)462ベクレル/kgに近いことから、東京都内の土壌汚染度は数百ベクレル/kg程度であると推察できるでしょう

 

もちろん0ベクレルの土地に住むことが望ましいのは言うまでもありません。しかし、現実には上述したレベルの汚染が東京には存在します。一部ホットスポットを除けば外部被曝として受ける被曝量はほぼ無視できる水準であるため、土壌中もしくは地面から飛散した放射性物質を体内に入れさえなければ問題ありません。しかし、全く体内に取り込まないことなど可能でしょうか。

普通に生活していれば、呼吸による吸入に加えて、目や口、傷口等から吸収してしまうリスクがあり、通常の生活ができる土壌の汚染度の限界は大人で100ベクレル/kg程度が限界と考えられています。放射性セシウムがゼロでなくとも概ね10ベクレル/kg以下程度であれば、マスク装着等の特段の対策を取る必要なく通常の日常生活が可能ですが、現実の東京の汚染度は100ベクレル/kgを明らかに超えているため、マスク等の被曝対策なしに生活することは非常にリスクが高いと考えられます。

 

加えて、2012年3月以降、放射性物質による汚染度が比較的高いと思われる宮城県女川の汚染瓦礫の焼却が東京都内で本格化し始めたため、大気中の汚染度が上昇し、特に吸入のリスクが格段に上昇しています(既に昨年より受け入れが始まっていた岩手県宮古市の瓦礫とは大きく異なり、女川の瓦礫はより高度に汚染されている可能性が高いため)汚染されたものを再度「燃やすこと」はもう一度「爆発させること」に等しい暴挙です。バグフィルターにて殆ど捕捉可能との説明がなされていますが、バグフィルターでは放射性物質を除去するのは到底不可能であるとバグフィルター製造メーカーが認めており、清掃工場の外部に汚染が拡散されることは周知の事実となっています。既に焼却場の隣地から高濃度の汚染が観測されており、特に沸点の低い放射性セシウムは大気に放出されているものと考えられます。瓦礫焼却をストップすることは現時点ではほぼ不可能であり、屋外でのスポーツは控えるなど、より厳格な放射線防護を考慮した被曝対策をしなければ、東京での生活は極めてリスクの高いものとなっています


尚、文科省の航空機モニタリング調査において併せて記載されている空間線量はエリアにおける人体への影響を与えうる汚染度を判断する上ではあまり重要な意味を持ちません。単純に空間線量だけを見てもどこが汚染されているのかはわからないということを理解している方は少数ですが、このことは非常に重要なことですので、よく覚えておいていただきたいと思います。

 

全体の放射線量-自然放射線量=原発事故による放射線量」です。ここが重要です。つまり、自然放射線量からの超過分が問題となる人工放射線と考えられます。(自然放射線と人工放射線の違いについては、 対策を考える上で > 内部被曝の恐怖 にて後に説明します。 )

 

[source:日本地質学会「日本の自然放射線量全国版」]

上記の自然放射線量を示したマップをご覧ください。例えば日本国内において自然放射線量が一番高いところは0.127μG/h(=μSv/h)以上であり、数値だけを見ると不安になる水準ですが、自然放射線量が高い分には殆どガンマ線による外部被曝のみですので、内部被曝がゼロであればこのレベルでも健康に影響のあるレベルではありません。

行政等が行っている放射線測定(シンチレーションによる)は「ガンマ線」のみを測定しています。なぜならガンマ線しか正確に測ることができないないからです。鉄板でも通り抜ける強力なガンマ線は非常に計測し易い性質を持ちます。一方で、アルファ線、ベータ線は簡単に遮蔽できてしまい、短距離しか放射しないため計器で正確に測定するのが困難です。しかしアルファ線、ベータ線はガンマ線に比べて放射距離が短い分、その射程内に入ったときは、その短い距離で全エネルギーを使い切るのでダメージは凄まじいです。人体への影響度は外部被曝より内部被曝の方が比較にならないほど深刻なのですが、詳しくは後述する 対策を考える上で > 内部被曝の恐怖 をご覧ください。

 

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