10,000ベクレル/㎡以下、と言われてもピンと来ない方が多いかもしれません。食品等の暫定規制値(農林水産省)では「野菜や肉、それに卵や魚などそのほかの食品」における放射性セシウムは500ベクレル/kgという風に定められています。また、日本の食品衛生法では、1kgあたり5,000ベクレルの放射性セシウムが、土壌中の安全限界と見なされています。同様に馴染み深い「kgあたり」に変換してみましょう。
一般的には地表面の単位当たりの蓄積量(Bq/m2)を65で割ることで土壌中放射能濃度(Bq/kg)に換算することが多いです(これは、土壌の密度を1.3g/cm3として、土壌採取の深さ5cm中にほぼ全ての放射性セシウムが沈着しているという仮定に基づいています)。
東京都心部および神奈川、千葉、埼玉の多くの部分の土壌の汚染度は10,000ベクレル/65=約154ベクレル/kg以下となります。
一方、下記「放射能防御プロジェクト」では東京都内の平均土壌汚染(セシウム134、137合計)は462ベクレル/kg。上記の文科省の航空機モニタリング調査結果とは大きく差があります。
[source:放射能防御プロジェクト「首都圏土壌調査結果」]
<2012年3月24日 追記>
上記「放射能防御プロジェクト」の代表である 木下黄太さんが、この度データの取捨選択をし、東京23区の汚染状態の再確認を行ったとのことです。信頼性の低いデータを除き、新たに追加収集したデータを加えると、下記の通り、東京23区の放射能汚染状態はセシウム合算で平均1,006Bq/kgとの結果になるとのことです。木下黄太さんによれば、これはチェルノブイリ原発事故から数年後のウクライナのキエフをやや上回る程度の汚染度ということで、東京23区の汚染平均はおおよそそ800Bq/kgから1,000Bq/kg程度であろうと推測しておりますが、これは後述する当サイトにおける「東京都内の土壌汚染度は数百ベクレル/kg程度」との推察と大きく変わりません。詳細は「木下黄太のブログ」記事をご覧ください。
(捕捉: キエフはチェルノブイリ原発から南方130km程度の距離にありますが、事故直後の風向きが逆の北西から北東方向であったため深刻な汚染となりませんでした。)
東京都23区平均: Cs-134: 447Bq/kg, Cs-137: 559Bq/kg, Cs合算: 1,006Bq/kg
Bq/m2→Bq/kgへの換算係数65が上記の一定の仮定に基づいていることから、土壌の質、密度等により誤差が生じるのは仕方がないものと思われますが、それにしても差が数倍以上というのは大きすぎます。
これは、前者がアスファルトや建物を含む地表全体から発する放射線を計測しているのに対して、後者が庭や植え込みなどの「土」のみをサンプルとしていることに差異の要因があると考えられます。つまり、アスファルト、コンクリート等はセシウムの沈着率が低く、雨等で洗い流される割合が大きい一方、セシウムは土によく保持されるということが影響していると思われます。
セシウムの性質については下記の解説が分かりやすいです。
[source:日本土壌肥料学会「放射性セシウムに関する一般の方むけのQ&Aによる解説」]
<要点> ・セシウム137は、土に強く保持される特徴がある。
・半分の濃度に減る機関(滞留半減時間)は水田で9~24年、畑で8~26年。
ここで皆さんは疑問に思うはずです。肝心の土壌汚染の検査について、なぜ民間団体でなく行政がちゃんと行わないのか、と。実は東京都が2011年9月時点において、1地点のみですが、信頼性のある機器(ゲルマニウム半導体検出器)にて測定しております。
[source: 東京都 福祉保健局 「土壌中の放射性物質の測定結果について」]
上記検査によれば、 土壌採取場所は「東京都新宿区百人町」、採取日は「2011年9月6日」、「深さ0~5センチメートル」の土壌を採取し、「ゲルマニウム半導体検出器」にて測定した結果、セシウム134と137の合計値で790ベクレル/kgとあります。
実はこの検査は原発事故以前より年に毎年1回定期的に行っているものです。過去の結果も「(参考)」として載せられております。過去5年間の 深さ0~5センチメートルの土壌測定結果は「ヨウ素131、セシウム134はND(不検出)、セシウム137は2.00Bq~3.67Bqベクレル/kg」です。これは半減期の長いセシウム137(半減期:約30.1年)は中国の核実験によるものやチェルノブイリ原発事故時に偏西風に乗って運ばれてきたものが微量に残っているからです。
この790ベクレル/kgという数字をどのマスコミも扱っていないことに驚かされますが、上記の「放射能防御プロジェクト」における東京都内の平均土壌汚染(セシウム134、137合計)462ベクレル/kgに近いことから、東京都内の土壌汚染度は数百ベクレル/kg程度であると推察できるでしょう。
もちろん0ベクレルの土地に住むことが望ましいのは言うまでもありません。しかし、現実には上述したレベルの汚染が東京には存在します。一部ホットスポットを除けば外部被曝として受ける被曝量はほぼ無視できる水準であるため、土壌中もしくは地面から飛散した放射性物質を体内に入れさえなければ問題ありません。しかし、全く体内に取り込まないことなど可能でしょうか。
普通に生活していれば、呼吸による吸入に加えて、目や口、傷口等から吸収してしまうリスクがあり、通常の生活ができる土壌の汚染度の限界は大人で100ベクレル/kg程度が限界と考えられています。放射性セシウムがゼロでなくとも概ね10ベクレル/kg以下程度であれば、マスク装着等の特段の対策を取る必要なく通常の日常生活が可能ですが、現実の東京の汚染度は100ベクレル/kgを明らかに超えているため、マスク等の被曝対策なしに生活することは非常にリスクが高いと考えられます。
加えて、2012年3月以降、放射性物質による汚染度が比較的高いと思われる宮城県女川の汚染瓦礫の焼却が東京都内で本格化し始めたため、大気中の汚染度が上昇し、特に吸入のリスクが格段に上昇しています(既に昨年より受け入れが始まっていた岩手県宮古市の瓦礫とは大きく異なり、女川の瓦礫はより高度に汚染されている可能性が高いため)。汚染されたものを再度「燃やすこと」はもう一度「爆発させること」に等しい暴挙です。バグフィルターにて殆ど捕捉可能との説明がなされていますが、バグフィルターでは放射性物質を除去するのは到底不可能であるとバグフィルター製造メーカーが認めており、清掃工場の外部に汚染が拡散されることは周知の事実となっています。既に焼却場の隣地から高濃度の汚染が観測されており、特に沸点の低い放射性セシウムは大気に放出されているものと考えられます。瓦礫焼却をストップすることは現時点ではほぼ不可能であり、屋外でのスポーツは控えるなど、より厳格な放射線防護を考慮した被曝対策をしなければ、東京での生活は極めてリスクの高いものとなっています。